交渉は,お見合いとポーカーの間に
「ハーバード流交渉術」という交渉理論の基本書があります。
大学生のころから繰り返し読んでいる愛読書の1冊で,私が講師をするセミナー等でもよく使っている書籍です。
その日本語版訳者あとがき(つまり本編ではありません)の中で,訳者が,アメリカ人の交渉スタイルと日本人の交渉スタイルを例えて,それぞれ前者を「ポーカー型」,後者を「お見合い型」と説明しています。
ポーカー型は,交渉を「駆け引き」の場ととらえ,「その場で決着」がつく,と考える交渉スタイルといえます。
一方でお見合い型は,交渉を「気心を通じさせる」場ととらえ,お見合いの席での印象を踏まえて「別の場で合意する」,と考えるスタイルといえます。
「出雲人」の一般的感覚からすれば,お見合い型スタイルのほうが親和的に感じられ,ポーカー型は何となく信用できない感じを受けるのではないでしょうか。
確かに,交渉は,人と人とのコミュニケーションですから,信頼関係が重要です。
徒に対立的な話をしていては,まとまるものもまとまりません。
他方で,交渉で「結果」を出そうと思えば,相手から情報を引出し,お互いに納得できる条件を模索するプロセスが重要です。
仮にこれを,お見合いのように,同席の場では印象形成にとどめるコミュニケーションしかしない,というだけでは,双方の本音の部分が見えないまま平行線で話が進まなくなる危険性が高くなります。
その帰結として想定されるのは,お互いに妥協して話をまとめてしまい,双方とも不満が残る,という結末です。
駆け引き,というと狡賢そうな印象になってしまいますが,大切なのは,その場での獲得目標を定め,そのために意を用いる,ということです。
いい交渉は,お見合いとポーカーの間にあると思っています。