多重債務問題の現在 〜改正貸金業法完全施行2年後の現状を考察する

「多重債務」問題をご存知でしょうか。

複数の消費者金融などから多額の借り入れをしてしまい,毎月の返済に追われて生活もままならない。

とりあえず今月の返済をしたはいいが,次の業者の返済のためにすぐに借りなおす。

高利のため,支払っても大部分は利払いに消えてしまい,いつまでたっても残債元本はなかなか減らない。

これが社会問題となった「多重債務」問題です。

5件以上借り入れがあるかどうかが多重債務のひとつのメルクマール,とされていることもありますが,本質的には,複数の借り入れの結果として弁済余力を超えるのであれば,それは「多重債務」の実質を持つ状態と認識すべきと思います。

この「多重債務」の背景となったのが,.哀譟璽勝璽鷆睛による高金利貸付と,過剰与信でした。

少し詳しく説明します。


1 グレーゾーン金利による高金利貸付

金融の際の利息の上限について規律する法律として,「利息制限法」と「出資法」という2種類の法律があります。

平成19年の貸金業法改正前は,それぞれ定められる利息の上限,超過した場合の扱いが異なっていました。

まず,利息制限法では,上限利息は15〜20%と定められていました。

そして,それに違反した場合,一定の例外を除いて超過部分は無効とされていましたが,罰則はありませんでした。

次に,出資法では,上限利息は29.2%(時代によって異なりますが,直近ではこの利率でした),違反した貸付を行った場合は刑事罰の対象でした。

このように,利息制限法に違反しても刑事罰はなく,他方で出資法に違反すれば刑事罰があることから,「利息制限法以上,出資法未満」の利率(=いわゆるグレーゾーン金利)による貸付が常態化していました。


2 過剰与信

信用の供与(=貸付)の際には,本来であれば,貸す側は借りる側の年収等の審査を厳密に行い,貸し倒れが生じないようにします。

しかし,前述のグレーゾーン金利による高金利を背景に,一部で貸し倒れても全体としてペイ可能,というような風潮の過剰な融資が実行されていました。

これら´△覆匹鯒愀覆法い匹鵑匹鸞澆靴胴睛を回収する,ことが容易にできる状態が法的に
生じていたのが多重債務問題の背景といわれてきました。


このような状況を改善するべくなされたのが,平成19年の貸金業法改正です。

これにより,.哀譟璽勝璽鷆睛の撤廃,過剰与信禁止などを含む様々な多重債務防止策が定められ,平成22年に同法が完全施行され,いよいよ多重債務問題の解消にむけて舵が切られたのでした。

それから2年以上が経過しました。

その後の多重債務問題はどうなったのでしょうか?

この点に関し,日弁連が金融庁・日本信用情報機構のデータを取りまとめた資料によれば,以下のような変動が見て取れます。

A 借り入れ件数1件の登録人数(無担保無保証)
 平成19年3月:492万人 → 平成25年3月:799万人

B 5件以上借り入れの登録人数(無担保無保証)
 
 
 平成19年3月:171万人 → 平成25年3月:29万人

C 登録人数(無担保無保証)
 平成19年3月:1168万人 → 平成25年3月:1311万人

これを見ると,「借入先5件以上」のいわゆる多重債務者は減少する半面,何らかの借り入れをしている人の絶対数は増加している=「多重」ではない債務者の増加傾向が読み取れます。

考えてみると,平成22年以降の新規借り入れについては,グレーゾーン金利が撤廃されたため,過払い金の返還を受けてそれで債務を一括返済する,というような劇的な改善策はのぞみにくいと思います。

他方で,1件の借り入れということであれば,負債の総額自体は大きくないため,破産のようなドラスティックな債務整理をとることにはコスト的にも影響的にも躊躇してしまうケースが多くなると思います。

それどころか,頑張ろうと思えばがんばれてしまう金額だからこそ,「こんな金額では相談に行くほどではない」と思って相談を回避することすら生じるかもしれません。

とすれば,このような状況を背景に,借入による生活困窮などの問題自体が相談として顕在化しにくくなること,いわば「潜在化」した問題となっていくことが懸念されます。

そのような潜在化した層に対してどのようにアプローチしていくか。

改正貸金業法完全施行から2年を経過しても,その検討はまだまだこれからというほかありません。


今後,貸金業法を巡っては,政治的な動きも多く出てくるのではないかと思われますが,地域の司法を支えるためにも,相談者一人一人の問題をきちんと見据えて,地に足の着いた活動をしていきたいと思います。


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